旅人の木

昼。
ボロッちい中華料理屋に行きたくなって歩いて探す。しかしないない。
駅から徒歩20分の道の果てにあったのは、「旅人の木」というラーメン屋だった。

ヤバそうな店に行くのが好きな僕は、住宅外の中にある場違いなラーメン屋に心打たれた。中華料理屋を忘れ、入店することにした。

店内に入ると、お客さん一人(意外)とお店を切盛りしている50歳位の夫婦が出向かえる。メニューを見ながら何を注文しようかと迷った末、「岩のりラーメン」なるものに決めた。それを告げると、温かみのある対応を奥さんがしてくれた。その瞬間、安らぎの時が流れることを確約された。

ラーメン屋って薄汚いイメージがある。頭に白いタオルを巻いた脂ぎったお兄さんが「へいらっしゃい!」といかにもいいそうだ。ダッシュで食べるもの選んで、お兄さんの顔色を伺いながら恐る恐る注文する。下手なことをすると、「ちっ、素人め!」とか言われそうだ。
そして工業的というか、流れ作業的なイメージであまり好きではない。目の前に人がいるのに、コミュニケーション不能な状態に陥っている。どのお店も、多かれ少なかれ吉野家みたいなことになっている。ベルトコンベアの上に僕ら顧客はのっかっている。

店内を見渡すと、小物がいい感じであることに気がついた。ラーメン屋というよりも、吉祥寺っぽいカフェ風とでも言おうか。
箸入れは、白い陶器に英字新聞が巻きつけられ、紐で結ばれている。
豆板醤入れも、お約束の変なプラスチック製のではなく、清潔な小ぶりの陶器のものをチョイス。
椅子には親切にも座布団。
水を入れるボトルには炭が入っていて、見た目にも美しい。
この夫婦は、お店を愛しているんだなって思った。

届くラーメン。想像していたのとは違い、美味しんぼ風に言うと「うそっと思うほど海苔が乗っかっていた」。
何より嬉しかったのは、いわゆる油がギトっとしたラーメンとは違う醤油ベースのラーメンだということ。かつおの味が主張強くて結構好み。しかも美味しい!
今までのラーメンの常識を覆す、オーガニックな感じだった。きっとお腹に入るものだから…みたいな感じで頑張って作ってくれたのだろう。

僕の好きなラーメン屋ランキング一位になった。
いい食をすると、その日一日の歯車がうまく回る気がした。