江ノ電

「鎌倉に今度連れてってよ」
鎌倉に引っ越した友人に向かって、何度となく言っていた。が、案の定鎌倉の壁は高く、果たされることはなかった。
就職を間近に控え、このままでは貸したwarpのDVDが返却されない恐れを感じ、遂に重い腰を上げた。



小田急藤沢駅を降り、江ノ電のホームへと向かう僕は、ドキドキわくわくしていた。実は人生で初めて江ノ電に乗ろうとしている。藤沢近辺に住んでいたくせに、江ノ電に乗る用事に恵まれることはなかった。


江ノ電
それは僕にとって単に電車としてではなく、遊園地の乗り物のような意味を持っていた。点と点をつなぐものではなく、楽しいもの、時代から取り残されたシーラカンスの様な生きる化石のようなものとして、頭の中でいつの間にか確固たる地位を築いていた。


小田急デパートの2Fにあるホームから江ノ電が到着する。心の中で歓声があがる。ディズニーランドの乗り物がホームに来たときと、同じ様な盛り上がりを見せる。
江ノ電は狭い住宅街をチンタラ走る。何ともない住宅街。だが、そこには間違いなく日本的な美しさが存在している。窓の外を凝視する。その時、イヤホンを伝って流れ込んだ曲は、「赤い電車」。


住宅街チルアウトを終えると、海が待っている。海沿いの幹線道路から流れる車にのる人々は僕らの方を見てニコニコしている。思わず手を振りたくなるが、大人の判断でやめる。


あっという間に「七里ガ浜」駅に着く。降りると同時に、友人を発見する。どうやら同じ電車に乗っていたようだ。
向かった有名なカレー屋「珊瑚礁」は月曜定休でやっていなかった。