ダンス・ダンス・ダンス


言わずと知れた村上春樹著。
昨日、ふと一説を思い出した。


僕の部屋には二つドアがついている。一つが入り口で、一つが出口だ。互換性はない。入り口からは出られないし、出口からは入れない。それは決まっているのだ。人々は入り口から入ってきて、出口から出ていく。いろんな入り方があり、いろんな出方がある。しかしいずれにせよ、みんな出ていく。あるのものは新しい可能性を試すために出ていったし、あるものは時間を節約するために出ていった。あるものは死んだ。残った人間は一人もいない。部屋の中には誰もいない。僕がいるだけだ。そして僕は彼らの不在をいつも認識している。去っていった人々を。彼らの息づかいや、彼らの口ずさんだ唄が、部屋のあちこちの隅に塵のように漂っているのが見える。