柳町光男オールナイト

吉祥寺バウスシアター柳町ナイトがあるとの情報を、バナナレコード吉祥寺店で独占入手した。
時間が作れず公開が終了してしまった「カミュなんて知らない」や、僕が観るべき映画リストのかなりトップにランクインされていた「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR 」が上映されるとのこと。
行かない話はない。


監督自ら来館し、舞台挨拶をするというのに観客はまばら。平日昼間の映画館のように、15人位しかいない。しかも、劇的に変人オーラを発するこゆい面々である。僕も彼らの一員であることを僅かに恥じた。
以下感想。



カミュなんて知らない


映画のあらすじ。舞台は大学のキャンパス。映画を撮影する授業を履修している生徒達は複雑な人間に悩まされ、教師は生徒とのジェネレーションギャップに頭を痛める。
映画内映画のあらすじ。愛知県の男子高校生が、人殺しを経験したいとの理由で老婆を殺す。実話をベースにした話であり、映画内で映画を撮影している人々と同世代の犯人。
更に雑に言うと「日本版エレファント」。


この映画は凄い。鳥肌もの。イケ映画。自信を持って観るべき映画ということができる。
学生映画の視点から言うと、キャンパスでロケを行った瞬間にクソ映画の烙印が押される傾向を感じていたが、そんなことを感じさせる隙がこの映画には微塵もなかった。まずそこで驚いた。緻密に計算された長回しのオープニングなのだが、いきなり学生映画と格の違いを見せ付けるかのようだった。その時点で軍配は上がっていた。


この映画に出てくる大学生はハングリーに映画製作を行っていた。
寝る暇も惜しんで。その取り組む姿と自分の今の姿を重ねてみて、自分の駄目さに気が付いた。負けてられんなと。自己啓発映画ではないが、何かにガツガツ打ち込みたいなと思わせるものがあった。


カットの声がしているのに、黙々と演技を続ける俳優。映画内映画と映画の境目がわからなくなる。そこに痺れた。


僕らの世代の人間だけが問題なのだ的な描かれ方をしていたのが正直不快だった。
僕らの世代の人間だけが、見知らぬ人が一人死ぬことに対して何ら問題がないという様な描かれ方をしていた。
以前TV番組で政治家にイラクの場所はどこかという問題を出していた。サウジやシリアの場所を指し、正解した政治家はいなかった。イラクに対して意思決定を行える立場の人間ですらそうなのだから、その他の人間に於いても恐らく同様だろう。全世代の人々は何万という命に対して無関心なのである。


とりあえず、百聞は一見にしかずで騙されたと思って観てみては。



「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR 」


新宿を走る暴走族のドキュメンタリー。同名のバンドは、この作品名から名付けたとのこと。


非行は個人の責任だと思っていた。個人の意思決定でその道を選んでいるのだから、全ての責任は彼らにあるのだと。この映画を観て、真に非行の原因は家族にあるのだと実感した。
その不良少年と親のやり取りを観る。話に参加せず、新聞か何かに目を通し続ける父親。目を合わせず内職を続け、質問に対する答えを的確に出さない母親。僕が不良少年の立場だったらイラつくし、罵声も浴びせかけただろう。
父親、母親にインタビューをする。私は悪くない的な責任を他へ求めるような解答を続ける両親。吐き気がした。
家を出ようにも経済力がない無力さ。こんな家庭に滞在する位だったら、外に居場所を求めてしまうのも頷ける。
「愛情を受けて育った子はグレない」というようなことを以前に伯母が言っていたような気がする。年の功。


家庭の問題は社会から発生する。社会の問題が家庭に押し付けられ、家庭の問題が子供に押し付けられる。それで暴走族が発生して、日本社会が上手く回っていく。加害者である大人が被害者である暴走族に眉をしかめる。悲しい生き物が彼らだと思った。


暴走族の少年達の目つきは幼いが、街で出会っても目を合わせたくない。中国共産党ではないが、失うものを持たぬものは何をしてくるかわからない。何も背負わぬものは確かに強い。


音が割れていて何を言っているのかわからない場所が多々あったが、暴走族を写すことで日本を描こうとする壮大なドキュメンタリーであった。