イラン2@ハマダーン

テヘランの観光をほとんどせず、着いた翌日の朝にハマダーンへ向かった。
ハマダーンでホテルを探していると一人の男が車から声を掛けてきた。

基本的には声を掛けてくる人、一人一人対応するようにしている。なんだかんだで面白いし。
で、この人はホテルまで送ってやると言う。
車だし危ないかなと思ったが、相手は一人。しかもドライバーなので、いざとなったら蹴りでもかまして逃げれば問題ないと判断し、乗ることにした。背の高い45歳の男。メガネ。

「今日は時間があるのか?」
「結構ありますよ。」
「それだったら市内を案内してやる」
「ホテルに早く着きたいし、遠慮しときます」
「心配するな」

こんなやり取りの後、市内を案内してくれた。話によると、彼は高校の先生兼マーケティングコンサルタントをしているらしい。
微妙にありがた迷惑だったが、観光費用を全て持ってくれた。

彼は言う。
「今日うちに泊まらないか?」
動揺する自分。これは何かヤバイ臭いがする。けどこの人はいい人かもしれない。けどこんなところで、万が一死ぬ訳にはいかないし。けど、行けばきっと貴重な体験ができるだろう。相手のメンツも立てることができる。けど、先生とかコンサルとかそれっぽい正しさが逆に胡散臭い。ここはリスクを取るところではない。断ろう。

「ノーセンキュー」
「何故?」

ここから何を答えても、激しい何故の応酬。信用できる人間だから安心して来いみたいなことをしきりに言う。断りまくり、時間は3時間ほど経過し辺りは暗くなりはじめる。

「行かないという決断は変える事ができない!」

すると彼は手のひらを変えたように、僕のことを馬鹿にしだす。このチキンめ、弱虫め。お前のことは絶対に忘れないみたいな事まで言う。
このセリフを聞いて、行かないのが正解だったと確信した。

「イラン人はみんないい人だし、親日だし安心だよ」
なんて来る前は言っていた。けれども、心の奥底でイラン人は危ないとか思っていることに気が付いた。
僕はできる限り、この社会のことや人間を理解しようと思っている。けれども、どこか最後のラインで踏みとどまってしまう。

「イラン人はみんないい人だし、親日だし安心だよ」
この言葉がむなしく響いた。